1年で終了した「みんなの駐車場」
株式会社Minchu(代表取締役:大﨑道雄)は、空き駐車場の有効活用のため、これまで月額固定サービスであった「駐車場シェアリングサービス みんなの駐車場」を、会員であれば完全無料で駐車できるサービスへ切り替えることを発表しました。2018年夏、1年前のことでした。対象地区は神戸市内で、駐車時間は1回あたり最大6時間であったり、予約も同時には1回までというような縛りはありましたが、画期的なサービスとして注目されました。利用者は、専用のスマートフォンアプリをダウンロードして予約するだけで、運営経費は駐車場周辺のお店からの広告収入を充てていて、車の入出庫の際にアプリの画面にお店の広告が掲示されることで、利用を促すという仕組みです。
これはジオセンシングと呼ばれるもので、要はリアルタイムでの動態分析によって無駄なく駐車場利用者とスポンサーとを繋げ、経済効果を期待するというものです。これ自体は、新しいチャレンジではありましたが、残念ながら、仕組みや構想自体に深みがなかったことが影響しました。
あまりに早い計画の破綻と楽観主義
完全無料の発表から1年を経た2019年8月末。残念ながら、このサービスは終了することになりました。利用者には好評であったようですが、利用頻度はさほど高くないうえに、スポンサー効果としては、スマホ画面への広告の表示、或いはアプリの予約MAPに店舗ロゴが表示される程度で収益効果も明確化されない、また空き駐車スペースの利用ということで、そもそもそれほど効果が濃い場所ではないことなども相まったからだと思われます。“構想自体の深み”と言ったのは、これらのデメリットについては、最初から分かっていたころですので、それに対する掘り下げや対応策が必要で、楽観主義が過ぎたと言われても致し方ないかも知れません。
結果論になりますが、ジオセンシングを用いたビジネスモデルでは、広告を目にする人数が重要です。であれば、特定の駐車場に車を止めるドライバーのスマホ画面に絞り込んで集客するのではなく、普通に地域広告を出した方が効果的で安上がりになりますし、効果を狙うのであれば、普通に○○円以上利用してもらったら無料としてクーポンを配布したほうが良いでしょう。“駐車場を無料化して広告収入で利益化する”というのは、例えチャレンジだとしても、あまりにスケールが小さいように思えます。
「みんなの駐車場」の捲土重来に期待する
Timesなどの大手コインパーキング企業などは、胸を撫でおろしているかと言えば、当然の帰着だと高を括っているかも知れません。しかし、「駐車場の無料化」という発想自体はかなり魅力あるコンセプトではないかと思います。株式会社Minchuは駐車場のシェアリングサービスを業務としていますので、初期の発想はまさにその流れに沿ったものではありますし、またベンチャー企業であることから、それなりにアプリやシステムを使うことにこだわるのは当然だったでしょう。
それは同業他社として駐車場シェアリングサービスのリーディングカンパニーとしてakippaがあることを見ても明らかでしょう。しかしそのakippaも収益という点からは伸び悩んでもいます。今後、別角度から発想すれば、或いは新たな技術革新によって、新たなコンセプトが生まれてくることもあるのではないかと思います。
今回の「みんなの駐車場」のビジネスは休止を余儀なくされましたが、ユーザーのニーズという点では高い支持を受けていると言えます。このニーズは単に“タダで駐車したい”といったようなものではなく、そこに経済環境や駐車場業界への不満などが含まれているように思えます。そうであるならば、まだビジネスチャンスは途切れてはいないでしょう。
一旦、リングでダウンを奪われたとしても、最後まで立っている方が勝ちと言います。駐車場新聞はシェアリングサービスを応援していますが、そこに「みんなの駐車場」も加えて注目してゆきます。