国土交通省は5月29日、東京オリンピック・パラリンピック競技大会での駐車場不足が見込まれるため、対策を協議する「駐車場対策協議会」を発足させると発表しました。
正式には「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関する駐車場対策協議会」といい、その目的は、この期間前中後の輸送対策として、「働きかけによるTDM」「事前予約システムの導入やパークアンドライドの促進」なのだそうです。
しかし、残念ながら、この発表を肯定的に受け取る訳には、なかなか行かない背景があります。何故今になって“協議会発足”なのか。またなぜ肯定的に受け入れられないのか。いくつかの視点でご説明します。
なぜ、これまで対応してこなかったのか。またも東京オリンピックの“焼け太り”?
この発表を聞いて、多くの有権者が感じたのは、主に次の3点ではないでしょうか。
- 東京での駐車場不足対策を今まで考えてなかったのか
- またお役所主導の協議会を作るのか
- そもそも、いまから間に合うのか
結論から言うと、駐車場不足については、かなり以前から問題化されていました(当たり前のことですが)。しかし、この複雑な問題をどこが責任を持つのか、都の内部でも押し付け合いがあったこともあり、具体的な動きはとられていませんでした。
これは(3)の答えにもなるのですが、ぎりぎりまで決まらずにいると、当然国土交通省主導での協議会が発足されるので、その権威と予算に頼れば容易に解決する問題であると考えられていたと言えるでしょう。
それはそれで不可能な話ではありません。むしろ、インテリジェンスを活用して、事前に問題の解決を図ろうとしても、既得権益者の跳梁跋扈する東京都では困難なのかも知れません。
そもそもTDMって?
今回の協議会が目指す指針の中の「TDM」とは何でしょうか。またなぜ頭に「働きかけによる」という言葉があるのでしょうか。
まずTDMとは「Transportation Demand Management(交通需要マネジメント)」のことで、自動車の効率的利用や公共交通への利用転換などについて、交通行動の変更を促して、発生交通量の集中を避け、抑制することで、「交通需要の調整」を行うことを言います。
具体的には公共交通機関の積極的な促進を促したり、パーク&ライドやパーク&バスライド駐車場の利用を進める。或いは、LRTやコミュニティバスや自転車利用を促進させるなどを言います。
しかし、TDMの核は決してこうした“当たり前”のことだけではありません。ここにこれを国土交通省主導にした意味があります。
役所の権益に直結した様々な権限は東京の発展に繋がるか
TDMではこれまで日本では実現しなかった項目が多く含まれます。最も大きなものとして、オリンピックが日本の最も暑い時期に行われるため、朝夕などのピーク時間帯の交通をピーク時間外にシフトさせたり、交通需要の時間的な平準化(時差出勤、フレックスタイムなど)から、5・10日の見直しなどの商習慣の見直しなどもそうですし、交通管理者による交通管制の高度化(強権化)なども含まれるでしょう。
このこと自体は否定されるものではありません。しかし東京都自体が、このTDM政策を皮切りに、自らが東京の持続的発展に役立つ仕組みだと信じる方向性の構築に、利用できると確信していたとしたら、これは既得権益の置き換えに過ぎないことになるかも知れません。
市民に直結する事で言えば、働き方改革と関連づけて期間中の在宅勤務やカーフリーデーやナンバー規制なども関係するでしょうし、炭素税に結び付けば更なる官僚の権限強化になるでしょう。有権者の多くは、一種の胡散臭さを感じているのかも知れません。
先程も述べたように、これ自体は否定されるものではないでしょう。高い見識と大都会東京の一極集中問題に純粋にメスを入れようと言うのであれば、良い方向で解決策の模索になるかも知れません。
しかし、これまでの大都市東京の一極集中環境に胡坐をかいて、これまでと同様、官僚の規制強化の材料にしようとするのであれば、既に有権者も敏感に感じとるに違いないことですので、良い方向には繋がらないことを謙虚に受け止める必要があることは忘れてはならないことです。